起業したら速やかに各種社会保険に加入する必要がある
起業したら社会保険に加入し、保険料を支払わなくてはなりません。
とはいえ、個人で起業した場合と、そうではない場合では、加入すべき社会保険は異なります。
この記事では社会保険についての解説と、その手続きについて詳しく解説しています。
目次
社会保険の種類
社会保険制度とは社会保障の分野の1つを指します。
疾病や失業、労働災害や介護などのリスクに備え、保険によるカバーを受ける仕組みです。
日本の制度では、以下の5種類の社会保険制度があります。
- 厚生年金
- 健康保険
- 介護保険
- 労災保険
- 雇用保険
順を追って解説しましょう。
① 厚生年金
厚生年金とは日本の被用者が加入する、所得比例型の公的年金を指します。
厚生年金保険法等に基づいて、日本政府が運営しています。
労働者の老齢や障害、死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と、福祉の向上に寄与することが目的です。
2024年10月から従業員51人以上の企業規模の、パートや非正規労働者の厚生年金加入が義務化されました。
② 健康保険
健康保険とは雇用者の福利厚生を目的に、社会保険方式で運営される医療保険のうち、健康保険法に基づくものを指します。
医療保険事務上は社保(しゃほ)と呼称され、次の2つに大別されます。
- 健康保険組合連合会(組合健保):主に大企業被用者などを対象
- 全国健康保険組合(協会けんぽ):主に中小企業被用者などを対象
③ 介護保険
介護保険とは公的介護保険制度という社会保険のことを指します。
被保険者は介護が必要な状態になったときに、原則1割負担で介護サービスが利用できます。
40歳以上の方は介護保険の被保険者となります。
加入は任意ではなく義務なので、自分の意思で脱退はできません。
なお、40~64歳の方は16種類の特定疾病のみ利用でき、65歳以上の方は原因を問わず利用可能となります。
④ 労災保険
労働者災害補償保険とは、労働者災害補償保険法に基づき、業務災害及び通勤災害に遭った労働者、またはその遺族に給付を行う公的保険制度を指します。
略称は労災保険と呼ばれます。
労災保険は事業所単位で適用され、原則として労働者を1人でも使用する事業は、強制適用事業とされます。
なお、同居の親族は原則として労災保険上の労働者には当たらないので、家族のみで事業を行っている場合は、適用事業場とはなりません。
⑤ 雇用保険
雇用保険とは雇用保険法に基づく、失業・雇用継続等に関する保険の制度を指します。
財源は雇用者と雇用主が社会保険として負担するほか、国費投入もされています。
前身の失業保険が失業の事後的対応である、失業手当金の給付に重点を置いていたのに対し、雇用保険ではこれに加えて失業の予防や、雇用構造の変動への対応にも重点を置いています。
法人設立時の社会保険は加入義務がある
法令により法人設立時の社会保険は加入義務があります。
次に該当する事業所は、厚生年金と健康保険に加入しなければなりません。
強制適用事業所
・事業主のみの場合を含む常時従業員を使用する法人の事業所
・5人以上の従業員を常時雇用している事業所(非適用業種を除く)
加入は義務なので、怠ると罰則が課せられます。罰則については後述しましょう。
起業のやり方と注意点
起業する際にはそのやり方と注意点があります。以下の10項目はチェックしておきましょう。
- 利益の出るビジネスモデルを考える
- 自己資金の確認
- 資金調達先を確認
- 顧客や仕事を確保
- 仕入先の確保
- 人材の確保
- 広告宣伝を考える
- 税金関連の知識を身に着ける
- 法関連の知識を身に着ける
- 社会保険に加入する
いずれも重要な注意点なので、起業する前に十分な準備が必要です。
一人社長は加入不要の社会保険がある
法令により法人設立時の社会保険は加入義務があります。
しかし、いわゆる一人社長の場合は、加入しなくてもいいものがあります。
厚生年金・健康保険・介護保険・労災保険・雇用保険の5種類の社会保険制度のうち、加入が必要なのは厚生年金と健康保険の2つとなります。
介護保険は特別な手続きは必要ありません。
雇用保険は常用の雇用者が対象なので、1人社長では加入できません。
労災保険については加入しなくてもよいのですが、業種により業務災害が心配される場合には、特別加入が認められます。
個人事業主の場合の社会保険
個人事業主とは法人を設立せずに、個人で反復・継続して事業を営んでいる人を指します。
従業員を雇用していたとしても、法人を設立していなければ個人事業主になります。
社会保険は一人社長の場合と似ていますが異なる点もあります。以下で解説していきます。
加入必須の社会保険
個人事業主が加入必須の社会保険は、国民健康保険と国民年金の2つです。
全国健康保険組合(協会けんぽ)や、厚生年金には加入できません。
国民健康保険と国民年金以外で、個人事業主が加入できる社会保険は、次の3つとなります。
- 健康保険組合などの任意継続
- 各団体の国民健康保険組合
- 扶養家族として社会保険に加入
ただし、それぞれ期限や審査が必要な場合があります。
雇用状況により不要となる社会保険
法人が常時従業員を使用する場合は、労災保険や雇用保険への加入が必要になります。
しかし個人事業主の場合は、例え従業員がいたとしても、これらの社会保険に加入する義務はありません。
あくまで個人であり法人ではないからです。国民健康保険と国民年金のみで問題ありません。
ただし、一定限度以上の所得になると、所得税には累進課税が適用されるため、法人税を支払うよりも高額になる場合があります。
そのような場合は法人化を検討する時期といえます。
会社員と個人事業主の社会保険の違い
健康保険(社保)は会社員が加入する保険で、介護保険や厚生年金などと合わせて社会保険と呼ばれます。
一方、国民健康保険は、会社勤めをしていない個人事業主や、無職の人が加入する保険を指します。
これは国民年金も同様です。
社会保険に法人で入ってるのか、個人で入っているのかの違いといえます。
健康保険に関していえば、保険料の支払いは社保なら会社と折半になりますが、国民健康保険は全額個人で負担します。
出産手当や傷病手当は、社保にはありますが国民健康保険にはありません。会社員のほうが優遇されているわけです。
社会保険に加入しない場合の罰則
法人を設立したのに社会保険に未加入のままでいると、年金事務所から電話や文書で加入要請がきます。
これを放置しておくと、次は立入検査の警告文書が届きます。
この段階で加入すれば問題は生じませんが、さらに放置し続けると次のような罰則が課せられます。
- 強制加入となり最大過去2年分の保険料を徴収される
- 健康保険と厚生年金が未加入の事業所は、6カ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金
- 雇用保険に加入していない場合は、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金
これらに加えて雇用調整助成金や、産業雇用安定助成金といった、助成金も受給できないので注意してください。
社会保険の加入手続き
社会保険に加入するには指定の書類を整え、加入手続きを行う必要があります。
ここでは健康保険と厚生年金、労災保険と雇用保険の4つの社会保険について、手続きに必要な書類や提出期限などをそれぞれ詳しく解説します。
手続きに必要な書類
健康保険と厚生年金加入時に必要な書類は次の通りです。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
労災保険加入時に必要な書類は次の通りです。
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 履歴事項全部証明書(写)
雇用保険加入時に必要な書類は次の通りです。
- 雇用保険適用事務所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
なお、それぞれ添付書類があるので、欠けの無ないよう注意してください。
提出期限と提出先
健康保険と厚生年金の提出期限は、事実発生から5日以内となっています。
会社本店の所在地を管轄する、年金事務所が提出先となります。
労災保険の提出期限は、従業員の雇用開始日の翌日から10日以内です。
会社の本店所在地を管轄する、労働基準監督署が提出先となります。
雇用保険の提出期限は、雇用した日の属する月の翌月10日までです。
会社本店の所在地を管轄する、公共職業安定所(ハローワーク)が提出先となります。
提出後の流れ
健康保険と厚生年金は必要書類を提出したら、数週間~1ヵ月ほどで審査が完了します。
審査が完了すると、各種証明書や案内書が届くので確認してください。
保険料の支払いは、加入が認められた月の翌月からとなります。
労災保険は労働保険の概算保険料を納付します。
雇用保険は雇用保険被保険者証が発行されるので、会社で保管せず速やかに雇用者に渡してください。
多忙な創業期の手続きは委託するのがおすすめ
各種社会保険に加入するには、さまざまな届書が必要です。
そして、それぞれの届書には、添付書類が求められます。
例えば健康保険と厚生年金の、健康保険・厚生年金保険新規適用届には、会社の登記事項証明書と法人番号指定通知書が必要です。
他の届書も同様なので、多忙な創業期の手続きは委託するのがおすすめです。
外部へ委託するメリット・デメリット
社会保険や労働保険を委託する相手は、社会保険労務士となります。
メリットとデメリットがあるので解説しましょう。
メリット
- 社会保険や労働保険に関する手続きに人員が割かれず業務に専念できる
- 手続きを正確に行うことができる
- 業務の効率化をはかれる
デメリット
- 費用がかる
- 社会保険や労働保険に関するノウハウの蓄積ができない
メリットとデメリットを天秤にかけ、ケースバイケースで答えを出すようにしてください。
まとめ
社会保険についての解説と、その手続きについて詳しく解説してきました。
会社設立時には加入が不可欠であることが、おわかりいただけたと思います。
とはいえ、会社設立と同時に多くの届書を提出しなければならないので、業務に追われるスタートアップ企業では人員が割けないかもしれません。
社会保険労務士に依頼をするのも1つの方法です。社会保険や労働保険については、後々知識を得れば大丈夫です。