日本政策金融公庫の新創業融資制度は2024年3月で廃止となり、「新規開業資金」が代替えとなる。
自己資金がないまま起業を考える際に直面する課題は、「どうやって資金を調達するか」ということです。通常、資金調達には銀行などの民間金融機関を利用することが一般的です。
ただし、新規で会社を設立する場合、民間の銀行から融資を受けるのは容易ではありません。
このような新規創業者にとっては、公的金融機関からの融資を検討することがおすすめされます。
今回は、起業家向けの公的金融機関の融資制度である「新創業融資制度」や、融資を受ける際の留意点についてご紹介します
目次
起業時の資金調達方法は何がある?
起業資金を調達する際の最初の手段は「出資」です。出資は、特定の企業や団体に対して成長を期待して金銭や財産を提供することを指します。出資にはさまざまな手法がありますが、主要な出資方法には以下のものがあります。
以下ではこれらを順に詳しく見ていきましょう。
自己資金
起業家が事業を始める際に重要なのは、資金調達の方法です。資金調達を考える前に、まずは自己資金を活用することが基本です。自己資金を活用するメリットとして、経営権を保持できること、金利負担がないこと、そして資金調達先とのトラブルリスクがないことが挙げられます。
例えば、銀行などの外部からの資金調達では、金利や返済期限などの条件が付いてくるため、経営に制約が生じる可能性があります。一方で、自己資金を活用することで、経営の自由度が高まり、リスクを抑えることができます。
ただし、デメリットとしては、自己資金の範囲内で事業を行うことになるため、大規模な事業展開には限界があるでしょう。また、事業が失敗した場合には、自らの資産を失うリスクも考えられます。
したがって、自己資金を活用する際には、リスクを十分に考慮し、事業計画を練ることが重要です。
日本政策金融公庫からの融資
“引用元”:日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国の100%出資によって運営される政府系金融機関です。新たな事業をスタートさせる方々や起業家を支援するための「新創業融資制度」が用意されています。この制度は、担保や保証人の必要がなく、創業時やスタートアップ時に役立ちます。
対象者は新たに事業を始める方や、事業を開始してから2期分の税務申告を完了していない方で、融資限度額は3,000万円です。
さらに、女性や35歳未満の方、55歳以上の方を支援する「女性、若者/シニア起業家支援資金」や、生活衛生に関連する事業創出時に活用できる「生活衛生新企業育成資金(新企業育成・事業安定等貸付)」など、特別な補助金もあります。
日本政策金融公庫の融資は、他の金融機関から支援を受けにくい中小企業や小規模事業者を対象としています。実績が少ない起業家でも資金調達が容易であり、大規模な融資を一括で受けることができます。
申請から融資までのプロセスも迅速であり、まずは借入先として検討すべき手段と言えます。デメリットは、他の制度融資と比べると、貸付金利が高くなる可能性がありますが、一方で民間の融資に比べて費用が低く抑えられる傾向があるため、積極的に活用したいですね。
エンジェル投資家からの融資
エンジェル投資家とは、起業家のスタートアップを助ける個人投資家であり、VCとは異なり、個人所有の資金を投資します。エンジェル投資家からの資金調達は、VCとクラウドファンディングの中間くらいの額が期待されます。
しかし、有望な企業に限られるため、起業直後に出資の話が進むことは稀です。エンジェル投資家からの出資には、メリットとデメリットがあります。メリットとしては、経営アドバイスやビジネスパートナーの紹介が期待でき、出資までのスピードが速いこと、返済に猶予があることが挙げられます。
一方、デメリットとしては、起業家の保有株比率が下がること、起業直後の資金調達が期待しづらいこと、多額の出資が難しいこと、経営への自由度が制限されることが挙げられます。
エンジェル投資家は保有した株の価値が上がることで利益を得るため、出資先へのアドバイスを行うこともあります。そのため、事業拡大を目指す起業家にとっては魅力的な資金調達手法となっています。
日本政策金融公庫の新創業融資制度は2024年3月で廃止となった。
日本政策金融公庫の新創業融資制度は2024年3月で廃止となりました。ここからは新創業融資制度の廃止によるメリットについて解説していきます。
新創業融資制度の廃止によるメリット
まず、公庫が将来有望なビジネスとして見込まれた際、融資を受ける可能性があります。
日本政策金融公庫は、国の政策のもと、民間金融機関を補完し、社会のニーズに対応するために、さまざまな手法で政策金融を実施することを基本理念としています。
そのため、公庫から事業の社会的ニーズが高いと評価されれば、希望する融資額を調達できる可能性が高まります。次に十分な金額を公庫から融資を受けることができれば、協調融資を必要としない可能性があります。
協調融資とは、複数の金融機関が連携して資金を貸し付けることを指します。実際に、公庫と民間金融機関から協調融資を受けている事業主は多くあります。
協調融資は、複数の金融機関から資金を調達できる利点がありますが、手続きが煩雑になり審査に時間がかかる他、1つの金融機関が融資を拒否すれば協調融資が実現しないというデメリットも存在します。
将来的には、協調融資を必要としないケースも考えられます。これにより、事業主は資金調達に伴う手続き負担が軽減されるでしょう。
新規事業の融資は「新規開業資金」の申請がおすすめ
新規事業の融資は「新規開業資金」の申請がおすすめです。ここからは新規開業資金の変更点について解説していきます。
利率を一律0.65%へ引下げ
新規に事業をスタートする方や、事業を始めた後でまだ2期の税務申告を終えていない方々には、通常、金利が0.65%引き下げられます(雇用拡大を促進する場合は0.9%)。これにより、お支払いの利子負担を軽減できます。
返済期間が延長
今まで新たなビジネスを始める際の資金を返済する期間については、設備を整える資金に関しては20年以内(うち初期の2年間は無担保期間)、事業を回すための資金に関しては7年以内(うち初期の2年間は無担保期間)とされていました。
これまで新たなビジネスを始める際に活用されていた新創業融資では、それぞれの融資制度が定める返済期間内で返済されるべきであり、新規開業資金と組み合わせて使用した場合は、先に述べた期間内で返済されることになっていました。
新創業融資制度が撤廃されたことで、新たなビジネスを始める際の資金を返済する期間が延長され、設備を整えるための資金については20年以内(うち初期の5年間は無担保期間)、事業運営資金に関しては7年から通常10年(うち初期の5年間は無担保期間)に変更され、これにより以前よりも長期の返済が可能となりました。
自己資金要件が撤廃
創業資金の調達には、以前は創業資金総額の10分の1以上の自己資金を用意する必要がありました。例えば、5,000万円の創業資金を必要とする場合、500万円以上の自己資金が必要でした。
しかしこの2024年以降、新たな開業資金の利用へと移行したことで、自己資金がなくても申し込みが可能となっています。
日本政策金融公庫の支援制度
ここでは日本政策金融公庫の支援制度について解説していきます。
日本政策金融公庫の創業時支援
日本政策金融公庫は、国が全額出資している政府系金融機関で、主に中小企業や小規模事業者に融資支援を行っています。
政府は地域の起業・開業活性化を通じて雇用を促進し、国内総生産(GDP)の増加を目指しています。
このため、日本政策金融公庫では、民間の金融機関からの融資が難しい中小企業や新規起業者向けに幅広い融資制度を提供しています。
特に注目される「新創業融資制度」では、通常、担保や保証人なしで大口融資を受けることが可能です。さらに金利が他の金融機関よりも低く、申請から融資までのプロセスがおおむね1か月で迅速に行われるのが特長です。
スピーディーな事業展開を目指す起業家にとって、大きな利点と言えるでしょう。また、起業・開業時は実績がないため、事業計画書が審査の中心となるため、資金調達の方法は経営時とは異なる側面がいくつかあります。
また、自己資金の比率が融資条件となる点も、創業時における資金調達の重要なポイントです。
創業計画書の作成について
日本政策金融公庫の創業時支援には、新たに事業を始める方が提出する「創業計画書」が必要不可欠です。この計画書には、事業を始める際に重要なポイントが記載されています。まず、事業の概略が記入されます。
これには、事業の目的や内容、商品やサービスの特徴などが含まれます。次に、資金調達の方法が明記されます。創業には多くの資金が必要となるため、どのようにその資金を調達するかが重要です。
さらに、事業の見通しも計画書に含まれます。将来の事業展開や収益予測、市場動向の分析など、事業の将来像を具体的に描くことが求められます。
創業計画書は、日本政策金融公庫のホームページにてセルフチェックリストがダウンロード可能ですので、記載方法に不安のある方はチェックしてみましょう。
融資制度を利用する際の注意点
異なる業種では、起業時にかなりの資金が必要となることがあります。このような業種での起業では、どの程度の融資を受けることができるかが重要になります。
ただし、融資は借金であるため、返済が必要となります。また、起業後の事を考慮した資金計画も重要です。そこで、起業や企業設立時に融資を受ける際の3つのポイントをご紹介します。
審査に通過しないと融資を受けられない
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」から自治体の起業サポート、金融機関においても、融資申請時には審査が行われます。そして、審査をクリアしないと、融資を受けることはできません。
具体的な審査内容や基準を知ることは難しいですが、募集要項などから審査詳細を推測することができるでしょう。また、日本政策金融公庫の起業支援サービスでは、自己資金のみならず、しっかりとした起業計画も重要な要素として記載されています。
そのため、計画をしっかりと立てておくことが審査通過の役に立ちます。融資を確実に受けるためには、募集要項や公式サイトなどの情報を確認しておくことが重要です。
日本政策金融公庫は、起業支援として公式サイトでの起業計画書の作成方法や手引きを紹介しているほか、専門家への相談サービスも提供しています。こうした支援は積極的に活用することをおすすめします。
希望する額の融資を受けられないこともある
融資を希望する際に、提示する融資額が必ずしも全額承認されるとは限りません。融資機関の審査状況によっては、希望額よりも少ない金額での融資となることがあります。
そのため、希望の融資額が受け入れられない可能性も考慮に入れておくべきです。
また、起業に使える自己資金を確保しておくことが重要です。融資は起業をサポートする手段であると捉え、融資に過度に依存しないように心がけましょう。
適切な返済計画が重要
資金を借り受ける際、利息を含めた返済が必要なのが融資です。起業後は、借り入れた金融機関の返済予定に則って、着実に返済していかねばなりません。
事業を始めた当初は、事業を軌道に乗せるために多くの出費が必要となることがあります。
支払い期間や金額によっては、経営が圧迫され、思うように事業を展開することができない場合もあります。融資を受ける金額だけでなく、毎月無理なく支払える計画も事前に十分検討しておく必要があります。
新規開業資金の申し込み方法
ここでは新規開業資金の申し込み方法について解説していきます。
ステップ1:融資相談を行う
融資を申し込む前に、金融機関の融資担当者と相談することで、貴重なアドバイスを得るだけでなく、信頼関係を築くことができます。
金融機関は、突然融資を求めるよりも、事情を理解している相手を好む傾向があります。誠実な印象を与えることで、融資の条件が良くなる可能性もあります。
ステップ2:必要な書類を準備して申し込む
金融機関を選定したら、融資を受けるために必要な書類を用意することが重要です。金融機関や融資商品によって必要な書類が異なることがありますが、一般的に必要な書類はいくつかあります。
まず、借入申込書が必要であり、会社の概要や登記簿謄本、決算書類、定款の写し、事業計画書、試算表、月次資産繰り表、印鑑証明書、納税証明書、資金使途資料などが挙げられます。
これらの書類を全て揃え、記入漏れがないかをしっかり確認した上で提出しましょう。融資を受ける際には、書類の正確性や完全性が非常に重要となりますので、慎重に準備することが成功への第一歩となります。
ステップ3:面談と実地確認を受ける
新しいビジネスを始めるための資金は、単に申請するだけでは手に入りません。「面談」と「実地確認」と呼ばれる審査が行われ、それを通過した場合のみ、融資を受けることができます。
申し込みが承認されると、数日以内に「面談通知」という書類が送付され、日本政策金融公庫のスタッフと面談を行うことになります。面談通知には面談の日程と必要書類が記載されているので、必ず確認してください。
面談では、ビジョンや目標、自身の経営者としての強みや弱みなどについて話し、開業に対する意欲を伝えます。その後には、担当者が実際に店舗や事業所を訪れ、事業が進行中であるかどうかを確認する「実地確認」が行われます。
面談と実地確認が完了したら、あとは審査結果を待つだけです。
ステップ4:審査に通過したら諸手続きを行う
申請から1週間ほどで、結果が郵送で通知されます。
審査を通過した際には、融資手続きに必要な契約書や関連書類が送付されるため、所定の手順に従って手続きを進めてください。
手続きが順調に完了すれば、指定の日時に融資金が振り込まれます。
まとめ
本記事では起業時に利用することができる日本政策金融公庫の融資制度や新創業融資制度などの特別制度、融資を受ける際の留意点、そして資金調達以外の手段について紹介いたしました。
起業において、日本政策金融公庫が提供する創業支援を含む多様なサポートが行われています。
新たな事業を始めるにあたって資金面での負担を軽減し、事業を円滑に進めるためには、融資制度の活用や助成金、補助金の検討も有益です。